投稿日時 2018-11-27 00:29:55 投稿者 ぺとろ千歌 このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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四 天上ノ殿麗人 挿絵 「姫様……そろそろ舞の稽古の時間です」 襖が開くと、外の廊下に膝をつく吹矢の姿があった。 俄に、侍女達の表情が色めき立つのも無理はない。齢二十三の吹矢は、弱冠十三という若さで難関とされる殿試に合格した優秀な文官である。さらりと流れる正絹のような黒髪を後ろで一つに束ね、凛とした瞳はいつも冴え、女官達の口を借りれば、それは知性の象徴的存在であり、憧れの天上人である。 「もうそんな時間? すぐ支度するから、ちょっと待って」 吹矢の開けた戸が半分程開いているにも関わらず、夜叉姫は後ろ向きになって薄手の襦袢一枚になり、稽古用の着物に着替えようとする。 吹矢は赤面して後ずさりし、侍女が慌てて戸の残りを閉める。夜叉姫に羞恥心という感覚は、未だ無かった。 牡丹柄の袷に着替えた夜叉姫は吹矢に連れられ、舞の部屋へと向かう。 「あのような事をされては困ります。お着替えの時はきちんと襖をお閉め下さい」 廊下を進みながら、吹矢は夜叉姫に言う。細い三日月のように通った鼻筋から顎先を結んだ線が美しいが、端正な横顔はこのような場面でも氷のように冷たい。 「ごめんなさい。でも、私の下着姿なんて、吹矢は見慣れているでしょう?」 吹矢が夜叉姫の教育係に抜擢されたのは、吹矢が十四歳の時である。宮中においてそれは異例ともいえるものだったが、学問にも、武術にも、舞踊にも秀でた吹矢には当然の事であった。 「私達だけの問題ではないのです。どうかお慎みを忘れずに……もう、大人なのですから」 「どうして?」 僻みめいた事を続けたくなるが、吹矢はそれ以上言わなかった。 絵師様:桃川コバト様 よりご許可をいただいて掲載しております。 |
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